債務整理方法のデファクトスタンダード
債務整理について調べていると「3会統一基準」というものを耳にすることがあると思います。
これが何なのかを説明します。
三会統一基準とは?
東京の弁護士が多くの経験の中から練り上げてきた債務整理の進め方の基準です。
三会とは、東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会を指します。
ここに属する弁護士が、弁護士会の「クレジットサラ金」法律相談センターで受任した債務整理事件は、三会統一基準に従って処理するルールになっています。
三会に属していても個別に受任した事件や、三会に属さない弁護士は、従う義務はありません。
しかし、とても良い指針なので、法的強制力があるわけではないですが、スタンダードとして広まっています。
三会統一基準の内容
基本
次の3つが当初からの基本的な内容です。
- 当初の取引よりすべての取引経過の開示を求めること
- 利息制限法の利率によって元本充当計算を行い、債権額を確定すること
- 和解案の提示にあたっては、それまでの遅延損害金、並びに将来の利息はつけないこと
最初の2つは主に「最初に過払い金計算をしてできるだけ債権額を減らす」という手順に関わるものです。
過払い金の計算には、最初から最新までのすべての取引履歴が必要です。
最初は自己破産しか方法がないように見えても、過払い金が大きければ任意整理で済んだり、債務整理そのものが不要になることもあります。
だから、何を置いても過払い金計算から着手すべきなのですが、弁護士の無知・不見識から救える者をみすみす自己破産に導く例も多く見られました。
実際にそんな目に遭って本を出している人までいます。(※)
※「私は自己破産しました」 安藤一平 著 本の泉社
三会統一基準が普及していくことで、こういう不幸な事例は減ると思います。
取引履歴の開示など当初は業者が激しく抵抗し、開示拒否・改竄・一部のみの開示などが多く見られましたが、三会統一基準の普及で諦めて協力する業者が増えました。
消費者金融も大手・中堅はスムーズに開示するようになってきています。
将来利子はつけずに残債元金だけを分割払いするのが任意整理のスタンダードな方法になっていますが、これも3つ目の基準で明示されています。
追加内容
平成12年4月に三会統一基準は改正され、下記3項目が追加されました。
- クレジット会社の立替代金債権額の確定に当たっては、手数料を差し引いた商品代金額を元本として利息制限法所定の利率によって算出された元本額を超えないように注意すること。
- 貸金債務が債権者と同一系列の保証会社に履行されて求償債権になった場合、保証会社の求償債権額は本来の貸金債権額まで減額すること
- 非弁提携弁護士などによる和解について、利息が利息制限法に則って引き直しをしているか、再計算をすること
一番目は、クレジットカードの債権も利息制限法に従いますよ、ということです。
利息制限法は貸金に関する法律なので、商品購入の立替払いであるクレジットには当てはまらないという議論もあったのですが、これを封じました。
二番目は、保証会社を隠れ蓑にした高金利の手口を封じたものです。
別の保証会社を作って不良債権はすぐに買い取らせて、代位弁済を受ける。
「保証会社から債務者への求償は、保証料と事務手数料なので、利息制限法の制限を受けない。」
そんな論法で高金利を取る会社もあったのですが、それも封じました。
三番目は、債権者とグルの弁護士が過払い金計算をせずに和解案をまとめてしまう手口を封じたものです。
従来は「和解済み」ということで再計算は業者が抵抗することが多かったのですが、それを許さない趣旨で明記されたものです。
闇金に関する追加内容
以上のほかに違法高金利業者、いわゆる闇金に関する基準も追加されています。
- 返済金、和解金その他、名目の如何を問わず、一切の支払いをしない
- 受領した金は一切返還の義務がなく、他方支払った金は返還を要求する
- 違法性を立証できる時は、刑事告発や行政指導申告を積極的に行う
闇金を全面的にバッサリ斬り捨てる内容になっています。
これについては現場の警察官がなかなか頭が追い付かない状況が長らくありました。
脅迫的・暴力的な取り立てを受けて警察に被害を訴えているのに「借りたお金は返しなさい」と、何の対策も打たずに帰すことが多かったのです。
それも最近は改善されてきました。
債務整理のやり方は弁護士それぞれの流儀があるのですが、非常にまずい例も少なくありませんでした。
しかし、このように三会統一基準が普及してきたおかげで、債務整理をする人が不当な不利益を被るケースは減ってきました。
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